AI研修に人材開発支援助成金を使う手順2026年8月改正後の対象要件と「実質無料」の落とし穴
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)をAI研修に活用する手順を、研修を提供する側の立場から解説。2026年8月3日改正で対象外になった研修、計画届の期限、不正受給と判断される営業手法まで、申請前に知っておくべきことをまとめました。


人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金とは、事業主が従業員に対して職務に関連した訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を国(厚生労働省)が助成する制度です。
複数のコースがあり、AI研修で検討されることが多いのは次の3つです。
コース | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業・DX化・GX化に伴う訓練 | 2026年度末までの時限措置 |
人への投資促進コース | 高度デジタル人材訓練など | 訓練の種類ごとに要件が定められている |
人材育成支援コース | 職務関連の訓練全般 | 幅広い訓練が対象 |
この記事では、最も相談の多い事業展開等リスキリング支援コースを中心に、申請の手順と注意点を解説します。
なお、本記事は研修を提供する側の立場からの説明です。助成率・上限額などの数値は制度改正で変わるため、必ず厚生労働省の最新の案内でご確認ください。
なぜ2026年に申請の注意点が増えたのか
2026年に入って、AI研修と助成金をめぐる環境は大きく変わりました。
1つ目は、大規模な不正受給事案です。2025年12月、各都道府県労働局は人材開発支援助成金の不正受給に関与した訓練実施者を公表しました。厚生労働省の発表によれば30の労働局で191事業所・約20億円にのぼる事案です。研修会社が受講企業に資金を提供し、企業が「訓練経費を全額負担した」ことにして申請するスキームでした。研修会社の社名も各労働局から公表されています。
2つ目は、審査の厳格化です。2026年3月、厚生労働省は申請時の提出資料に「教育訓練機関から提供された資料一式」を追加しました。研修会社の提案書や営業資料が、そのまま労働局の審査対象になります。
3つ目は、対象訓練の絞り込みです。2026年8月3日以降に提出する計画届から、事業展開等リスキリング支援コースでは「全社員向けの一般的なAIリテラシー研修」「汎用的なプロンプト講座」が対象外になりました。
つまり、AI研修なら何でも助成金が使えた時期は終わり、職務に直接必要な内容かどうかが厳しく見られるようになっています。
AI研修で助成金を使う5つの手順
手順1: 研修の目的を「職務」で定義する
「全社員のAIリテラシー向上」ではなく、「マーケティング部門の広告文作成とレポート業務にAIを組み込む」のように、特定の職務に直接必要な内容として研修を設計します。2026年8月改正後は、この定義ができていない研修は対象外になります。
手順2: 研修会社からカリキュラム・時間・受講料内訳を受け取る
申請にはカリキュラム、実施時間、受講料の内訳、講師情報などの資料が必要です。研修会社は訓練実施機関としてこれらの資料を提供します。実訓練時間が10時間以上のOFF-JT(通常業務から離れた訓練)であることを確認してください。
手順3: 社労士または労働局に対象可否を事前確認する
対象になるかどうかの最終判断は管轄労働局が行います。顧問社労士か社会保険労務士、または労働局に、カリキュラムを見せて事前に確認しておくと、計画届の差し戻しを防げます。
手順4: 訓練開始日の1か月前までに計画届を提出する
職業訓練実施計画届を、訓練開始日の1か月前までに管轄労働局へ提出します。後からの申請はできません。研修会社との日程調整は、この期限から逆算して行います。社内決裁や社労士の確認を考えると、研修開始の2〜3か月前には動き始めるのが安全です。
なお、申請書類の作成・提出を報酬を得て行えるのは社会保険労務士だけです(社会保険労務士法第27条)。研修会社が「申請を代行します」と言う場合は注意してください。
手順5: 研修を実施し、期限内に支給申請する
計画届どおりに研修を実施します。研修会社は実施記録・出席状況・受講証明を提供します。訓練終了後、所定の期限内に事業主から労働局へ支給申請を行い、審査を経て支給の可否と金額が決まります。
「実質無料」と言われたら疑うべき理由
「助成金を使えば実質無料で研修を受けられます」という営業を受けたことがある方は多いと思います。この表現には2つの問題があります。
要件を満たさない: 助成金は事業主が訓練経費を全額負担していることが前提です。研修会社が受講料の一部を「営業協力費」「販促費」などの名目で戻すと、全額負担していないことになり、支給要件を満たしません
不正受給になる: 実際に返金を受けた上で申請すると不正受給に該当し、受給額の全額返還に加えて延滞金や加算金、一定期間の助成金不支給といったペナルティの対象になります。研修会社だけでなく、申請した企業側も責任を問われます
厚生労働省は「実質無料」を謳う勧誘について注意喚起を行い、労働局への情報提供を呼びかけています。
つまり、「実質無料」は割引ではなく、企業を不正受給に巻き込む提案です。
研修会社の説明で確認したい3つのポイント
「対象となる場合があります」と条件付きで説明しているか(「必ず対象」と断定する会社は避ける)
「申請主体は貴社で、書類は社労士へ」と役割分担を明確にしているか
受講料の返金・キャッシュバック・ポイント還元を提案していないか
E-team AI では、法人向けの AI Marketing Pro / AI App Studio / AI Work Pro について、この3点を守った形でご案内しています。詳細は助成金ページにまとめています。 → https://ai.e-team.co.jp/courses/subsidy
よくある質問
AI研修なら何でも人材開発支援助成金の対象になりますか?
なりません。受講者の職務に直接必要な専門的知識・技能の習得を目的とした訓練が対象で、2026年8月3日以降の計画届からは全社員向けの一般的なAIリテラシー研修や汎用的なプロンプト講座は事業展開等リスキリング支援コースの対象外です。
研修会社に助成金の申請を代行してもらえますか?
できません。助成金の申請書類の作成・提出を報酬を得て行えるのは社会保険労務士に限られます。研修会社ができるのは、カリキュラムや実施記録など訓練実施機関としての資料提供までです。
計画届はいつまでに出せばよいですか?
訓練開始日の1か月前までです。社労士の確認や社内決裁の時間を含めて、研修開始の2〜3か月前から準備を始めることをおすすめします。
eラーニングのAI研修は対象になりますか?
対象になる場合がありますが、eラーニング・通信制の訓練は賃金助成の対象外で、同一の従業員につき年度1回までという制限があります。
個人で受講するAI講座にも使えますか?
使えません。人材開発支援助成金は事業主が従業員に実施する訓練が対象です。
まとめ
人材開発支援助成金は事業主が申請する制度で、支給可否は労働局の審査で決まる
2026年8月3日以降、全社員向けの一般的なAIリテラシー研修は事業展開等リスキリング支援コースの対象外
手順は「職務で目的を定義 → 資料を受け取る → 社労士・労働局に事前確認 → 1か月前までに計画届 → 実施と支給申請」の5つ
「実質無料」「申請代行」を謳う研修会社は、企業を不正受給に巻き込むリスクがある
助成率や上限額は必ず厚生労働省の最新の案内で確認する
AI研修の設計と助成金の考え方についてのご相談は、E-team AI のお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。 → https://ai.e-team.co.jp/contact
著者情報 中森秀彬(morimori.ai) 株式会社E-team 共同創業者 / AI開発責任者。GEO・AIOレポート自動作成ツール「AI SearchScope」開発者。法人向けAIマーケティング支援・AIマーケティング研修・AI×Web制作を手がけ、講師登壇は年間100回以上。 X:@morimori_ai_dev