AI検索のユーザーは情報を"浅く"受け取る——10,000人超の実験が示す、企業にとっての意味
- 秀彬 中森
- 7 時間前
- 読了時間: 10分

AI検索は便利です。ChatGPTに質問すれば、数秒で整理された回答が返ってくる。Google検索のように10件のリンクを開いて比較する手間はありません。
しかし、その「便利さ」にはコストがあるかもしれません。2025年10月、ペンシルベニア大学ウォートンスクールの研究チームがPNAS Nexus(米国科学アカデミー紀要の姉妹誌)に発表した論文で、AI検索で学んだ人は、同じ内容をWeb検索で学んだ人よりも「浅い知識」にとどまることが、10,000人超の参加者を対象にした7回の実験で示されました。
本記事では、この研究を含む複数の学術研究から、AI検索でのユーザー行動を分析し、企業が「AIO・GEO対策」を考える上で何を意味するのかを整理します。
この記事でわかること ・AI検索で学んだ人の知識が「浅くなる」という実験結果(PNAS Nexus, 2025) ・AIの出典付き回答をユーザーが「確認せずに信頼する」メカニズム(Ding et al., 2025) ・AI検索ではユーザーが約2件しかソースを確認しない事実(Venkit et al., 2024) ・これらの研究が中小企業のAIO・GEO対策に示す意味 |
【目次】
1. AI検索で学ぶと「浅い知識」にとどまる——PNAS Nexus論文の概要
2. AIの出典付き回答は「確認されずに信頼される」
3. AI検索のユーザーは約2件しかソースを見ない
4. 3つの研究が示す「企業にとっての意味」
5. 中小企業が取るべき具体的な対策
6. よくある質問(FAQ)
7. まとめ
1. AI検索で学ぶと「浅い知識」にとどまる
研究の概要
2025年10月にPNAS Nexusに掲載されたMelumad & Yunの論文「Experimental evidence of the effects of large language models versus web search on depth of learning」は、AI検索(LLM)とWeb検索のどちらで学んだ場合に、より深い知識が身につくかを実験的に検証したものです。
項目 | 内容 |
著者 | Shiri Melumad, Jin Ho Yun(ペンシルベニア大学ウォートンスクール) |
掲載誌 | PNAS Nexus(米国科学アカデミー紀要の姉妹誌、査読付き) |
実験規模 | 7回の実験、合計10,462名の参加者 |
実験内容 | 参加者を「ChatGPT使用群」と「Google検索使用群」に分け、同じトピックについて学習させ、その後の知識の深さ・助言の質を比較 |
資金提供 | Wharton Dean's Office, Wharton Behavioral Lab |
主な発見
発見1:LLMで学んだ人は「自分の知識が浅い」と感じていた
ChatGPTで学んだ参加者は、Google検索で学んだ参加者よりも、「自分がそのトピックについて深く理解できた」という実感が低かったことが報告されています。これは同じ事実情報が提示されていた場合でも同様でした。
発見2:LLMで学んだ人のアドバイスは「希薄で独自性が低い」と評価された
学習後に参加者が他者向けに作成したアドバイスを、第三者が評価したところ、LLMで学んだ人のアドバイスは「より希薄(sparser)」「より独自性が低い(less original)」「採用されにくい(less likely to be adopted)」と判断されました。
発見3:リアルタイムのWebリンクを追加しても結果は変わらなかった
LLMの回答にWebリンクを付加した条件でも、参加者の知識の深さは改善されませんでした。参加者はリンクをほとんどクリックしなかったと報告されています。つまり、一度AIが情報を要約してしまうと、ユーザーは「もう調べなくていい」と感じることが示唆されています。
なぜ「浅く」なるのか——研究者の説明 Web検索では、ユーザーは複数のリンクを開き、情報を比較・取捨選択し、自分で統合するプロセスを経ます。この「自分で発見・統合する」プロセスが深い知識構造の構築に不可欠である、と認知科学の先行研究で知られています(search-as-learning)。 LLMは情報をすでに統合して提示するため、このプロセスが省略されます。結果として、同じ事実を得ていても、知識の「深さ」と「独自性」が低下する、というのが研究者の理論的説明です。 |
2. AIの出典付き回答は「確認されずに信頼される」
PNAS研究が示した「ユーザーはリンクをクリックしない」という発見は、別の研究でも裏付けられています。
Ding et al.(2025):出典があると信頼が上がるが、確認すると信頼が下がる
66名の参加者を対象にした実験で、AIの回答に出典(引用リンク)が付いている場合、ユーザーの信頼感が有意に上昇することが確認されました。しかし、ユーザーが実際に出典をクリックして確認した場合、信頼感はむしろ低下しました。
つまり、AIの出典は「確認されないからこそ信頼を高める」という逆説的な構造があります。出典の存在自体が「信頼シグナル」として機能しており、内容の検証には使われていないということです。
Venkit et al.(2024, ACM FAccT 2025):AIの「権威的な声」
21名の専門家ユーザーを対象にした質的研究では、AI検索エンジンが「権威的な声」で回答することが問題として指摘されています。参加者の一人は、AIが「唯一の答え」があるかのように提示する問題を「God Voice(神の声)」と表現しました。
また、従来の検索エンジンではユーザーが平均約12件のソースを閲覧していたのに対し、AI検索では約2件しか確認しないことが明らかになりました(p < 0.01)。
研究 | 主な発見 | 参加者数 |
Melumad & Yun, PNAS Nexus 2025 | LLMで学んだ人は知識が浅く、助言も独自性が低い | 10,462名(7実験) |
Ding et al., 2025 | 出典付きAI回答は信頼されるが、出典は確認されない | 66名 |
Venkit et al., ACM FAccT 2025 | AI検索ではソースを約2件しか確認しない(従来は約12件) | 21名 |
3. AI検索のユーザーは約2件しかソースを見ない
3つの研究を総合すると、AI検索におけるユーザー行動の全体像が見えてきます。
AI検索のユーザー行動まとめ ① 情報を「浅く」受け取る:AIが要約した回答をそのまま受け入れ、自分で深掘りしない(PNAS Nexus) ② 出典を確認しない:出典リンクがあっても、ほとんどクリックしない。リンクの存在自体が信頼シグナルになっている(Ding et al.) ③ ソースの比較をしない:従来検索では約12件を比較していたのに、AI検索では約2件しか見ない(Venkit et al.) ④ 「もう調べなくていい」と感じる:AIが情報を統合済みで提示するため、探索の動機が消失する(PNAS Nexus) |
これは「AIが悪い」という話ではありません。ユーザーにとってAI検索は明らかに便利であり、効率的です。しかし、AIが「おすすめ」した情報は、従来の検索結果よりもはるかに強い影響力を持つという事実を、企業は理解しておく必要があります。
4. 3つの研究が示す「企業にとっての意味」
ここからは、これらの学術研究が中小企業のAIO・GEO対策に何を意味するのかを考えます。
意味1:「AIにおすすめされること」の価値は、従来の検索上位表示より大きい可能性がある
Google検索の1位表示は「10件のうちの1番上」です。ユーザーは他の9件も見て比較判断します。一方、AI検索で「おすすめ」された場合、ユーザーはそれを確認せずに信頼する傾向があります。つまり、AI検索での1社推薦は、従来検索の1位表示以上にユーザーの意思決定に影響する可能性があります。
意味2:「選ばれなかったこと」はユーザーには見えない
Google検索では、2位以下のサイトもユーザーの目に入ります。しかしAI検索では、AIが推薦しなかった企業は「存在しない」のと同じです。ユーザーは「他にどんな選択肢があるか」を自分で探さないからです。これは中小企業にとって、AI検索で「出てこない」ことのリスクが従来検索より大きいことを意味します。
意味3:AIに提供する「一次情報」の質が決定的に重要になる
AIはウェブ上の情報を統合して回答を生成します。自社サイトに正確で構造化された一次情報(サービス定義、FAQ、料金、施工事例など)がなければ、AIは自社を正しく紹介できません。前述のPNAS研究が示す通り、ユーザーはAIの回答を確認しに来ないため、AIに渡す情報の質が、そのままユーザーへの伝わり方を決めることになります。
5. 中小企業が取るべき具体的な対策
上記の研究知見を踏まえ、中小企業が今すぐ着手できる対策を優先度順に整理します。
優先度1:自社サイトの「一文定義」とFAQを整備する
トップページに「〇〇社とは、〇〇を提供する〇〇の専門企業です」と明記する。お客様からよく聞かれる質問を5〜10問、Q&A形式で追加する。AIが自社を正しく理解し、引用するための基本情報です。
優先度2:見出しを質問形式にする
SE Rankingの129,000ドメイン分析では、質問形式の見出しの効果が小規模サイトで大企業の7倍であることが示されています。「費用はいくら?」「どんな業種に向いている?」など、お客様の言葉をそのまま見出しにしてください。
優先度3:口コミ・外部言及を増やす
同じSE Ranking調査で、レビュープラットフォームに掲載されているサイトは引用確率が約3倍であることがわかっています。Googleビジネスプロフィールの口コミ獲得、業界ポータルサイトへの掲載、noteやYouTubeでの専門知識の発信が有効です。
優先度4:コンテンツを定期的に更新する
3か月以内に更新されたコンテンツの引用数は古いコンテンツの約1.7倍(SE Ranking)。月に1回、施工事例の追加や料金の更新をするだけで効果があります。
6. よくある質問(FAQ)
Q1. PNAS Nexusとは何ですか?
PNAS Nexus(Proceedings of the National Academy of Sciences Nexus)は、米国科学アカデミーが発行する査読付き学術誌PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)の姉妹誌です。2022年に創刊され、オープンアクセスで公開されています。
Q2. この研究は「AIを使うな」と言っているのですか?
いいえ。研究者自身も、AIの効率性の利点を認めた上で、「概念的な学習が必要な場面ではAIの要約に頼りすぎるリスクがある」と指摘しています。単純な事実確認(日付・数式・定義など)にはAI検索が適しているとも述べています。
Q3. 日本語での検索でも同じ傾向がありますか?
この研究は英語圏のデータに基づいています。日本語での完全な再現性は未検証です。ただし、Oxford Internet Instituteの「Silicon Gaze」研究(2026年1月、2,000万クエリ分析)では、ChatGPTが英語圏を系統的に優遇するバイアスがあることが確認されており、日本語圏ではまだ競合が少ない可能性があります。
Q4. 自社がAI検索でどう表示されているか確認する方法は?
ChatGPT・Gemini・Perplexityに自社名や業種名を直接聞いてみるのが最も手軽です。より体系的に把握したい場合は、AIO・GEO分析ツール「AI SearchScope」で複数プラットフォームの横断比較が可能です。
Q5. AIO・GEOとは何ですか?
AIO(AI Overview Optimization)はGoogleのAI概要機能に自社情報を表示させる施策、GEO(Generative Engine Optimization)はChatGPT・Gemini・Perplexityなどの生成AI検索エンジンに自社を引用・推薦してもらうための施策の総称です。従来のSEO(検索エンジン最適化)の延長にある新しいマーケティング領域です。
7. まとめ
本記事のポイントを整理します。
1. AI検索で学んだ人は、Web検索で学んだ人よりも「浅い知識」にとどまる。同じ事実が提示されていても、知識の深さと独自性が低下する(Melumad & Yun, PNAS Nexus 2025、10,462名・7実験)。
2. AIの出典付き回答は「確認されずに信頼される」。出典の存在自体が信頼シグナルになっており、ユーザーは内容を検証しない(Ding et al., 2025)。
3. AI検索のユーザーは約2件しかソースを確認しない。従来検索の約12件と比べて圧倒的に少ない(Venkit et al., ACM FAccT 2025)。
4. これらの研究は、AI検索での「おすすめ」が従来の検索上位表示以上にユーザーの意思決定に影響する可能性を示唆している。
5. 企業にとっては、AIに渡す一次情報の質が決定的に重要。自社サイトの構造化、FAQ整備、口コミ獲得、コンテンツ更新が優先施策。
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本記事で引用した主要研究
・Melumad, S. & Yun, J.H. (2025). Experimental evidence of the effects of large language models versus web search on depth of learning. PNAS Nexus, 4(10), pgaf316. doi:10.1093/pnasnexus/pgaf316
・Ding et al. (2025). Citations and Trust in LLM Generated Responses. 66名の参加者実験。
・Venkit et al. (2024). Search Engines in the AI Era: The False Promise of Factual and Verifiable Source-Cited Responses. ACM FAccT 2025. 21名の参加者、質的研究。
・Kerche, F.W., Zook, M. & Graham, M. (2026). The Silicon Gaze: A typology of biases and inequality in LLMs through the lens of place. Platforms and Society. doi:10.1177/2976862425140891
・SE Ranking (2025年11月). 129,000ドメインのChatGPT引用要因分析。
著者情報
中森秀彬(morimori.ai)
AIO・GEOレポート自動作成ツール「AI SearchScope」開発者。法人向けAIマーケティング支援・AIマーケティング研修・AI×Web制作を手がける。
X:@morimori_ai_dev




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